2月も半ばを過ぎて、パリの街には暖かな日差しが降り注いでいます。
そんな中、黄色いベスト運動が先週で丸3ヶ月目を迎えました
【フランスの暴動】黄色いベストとインチキ薬
2018年12月10日、「経済的・社会的緊急事態」を宣言したテレビ演説で、エマニュエル・マクロンはこう宣言した。「2019年から、smic (最低賃金)で働く労働者の賃金は毎月100ユーロ上がるでしょう。」
※Poudre de perlimpinpin スネークオイル、騙すことを目的としたやり取り、インチキ薬、当てにならない話や詐欺のこと。

危機の真っ最中に、共和国大統領が最も重要な方策についてこんなに厚かましく嘘をつくのを見ることはめったにない。実際のところ、いかなる”後押し”もsmic(最低賃金)には与えられていないのだ。2019年1月1日付けで唯一、法で適用される1.5%の増額は、インフレにより相殺される。
アフターサービスに追われた担当相はスピーチの翌日、こう説明した。まずはじめに、100ユーロには実際に2018年に行われた従業員拠出金の減額に関連する20ユーロが含まれていた(それ故当然のもの)。そして、追加の80ユーロは活動手当の引き上げ促進により得られるものだった(これは5年間で拡大すると予想されていた)。
※prime d’activité 活動手当
次に、より多くの受益者に給付金を拡大するため、政府はついにこの公約の影響を受けるのは最低賃金労働者(Smicard)の55%だけであることを認めた。世帯収入の合計と家族構成が活動手当とその金額に対する権利を決定する。
言い換えるなら、役員クラスが「仕事の報酬」を確実に得たい場合、それは矛盾にどっぷり浸ってしまう。経済的に配偶者に依存している最低賃金労働者に対してそのような手当が支払われることは無い。
※Il nage en pleine contradiction 矛盾にどっぷり浸かっている
政府首脳による「給与」という言葉の誤用は偶然ではない。給与よりも賞与を優先することによって、マクロン氏はさらに社会的権利を僅かばかりカットする。このボーナスは、「昇級」が約束されたすべての人に影響を与えるわけではないのだ。
それはいつでも減額可能で、給料とは異なり、(失業や退職の際には)いかなる権利も発生しない。また、労働協約の締結により給与体系全体に波及効果が生じることもない。
ジャン・ミッシェル・デュメイ
2019年1月
以上、ルモンド・ディプロマティック1月号から、マクロン大統領が発表した「2019年から最低賃金を100ユーロ引き上げる」という公約はスネークオイル、つまりまやかしであり真っ赤な嘘だったという趣旨の記事でした。
活動手当 (Prime d’activité)

最低賃金引き上げ100ユーロの内訳は、20ユーロが従業員拠出金の減額により生み出され、80ユーロは活動手当(Prime d’activité)の増額により捻出される訳ですが、活動手当とはいったいどんなものなのか見ていきます。
活動手当とは
- 2016年、従来の就業手当 (Prime pour l’ emploi)と就業者向けの生活保護(RSA : revenu de solidarité d’ activité)を統合して、低収入の若者支援を目的とした活動手当(Prime d’ activité)が施行される。
- 失業者に再就職を促し、低賃金労働者の購買力を高めることを目的とする。
- 勤労収入のある18歳以上の就業者に対し、収入が一定額に達するまで手当が支給される。
- 主な対象は若者で学生や研修生も含まれる。
受給者は
- 18歳以上。
- フランス国内(海外県も含む)在住。
- 就労者(個人事業主も可)。
- フランスかEU圏内の国籍保持者(スイスを含む)、5年以上正規滞在しているその他の国籍保持者。
ちなみに、1月の給与を補う活動手当が支払われるのは2月5日からで、今回の改革により、活動手当の対象世帯数を380万人から500万人に増やし、活動手当が最低賃金を越えて支払われる見込み。
受給例
- 手取り給与額が最大で1,560ユーロまでの子供のいない独身従業員全員に100ユーロ。
- 子持ちのシングルマザーは、給与額が最大で2,000ユーロまで活動手当を受け取ることができる。
- 二人の子供がいるカップルの場合は、一人が最低賃金、もう一人の給与額が1,750ユーロまでなら、(世帯)所得が200ユーロ増加。
一見聞こえが良く、低所得者にとって平等なように見えますが、実際に恩恵を受けるのは最低賃金労働者のうち55%だけ。また、活動手当はいつでも減額可能でいかなる権利も発生しないことから、不満の声が多く聞こえてきました。



企業向けの法人税額控除 (CICE)400億ユーロ

フランスでは年末以降、黄色いベストのおかげで、誰もが政府の不正をより意識するようになりました。2017年、住宅手当が月5ユーロ減額されると同時に、資産に対する累進税率は廃止され、富裕税が撤廃されました。その一方で、年金受給者の購買力は低下しています。
最もコストのかかる政策は、雇用主の社会保障拠出金の削減を伴って置き換えられた、競争力と雇用のための税額控除(CICE、企業向けの法人税額控除制度)。 このような制度により、財務省は今年、ヨーロッパで最も裕福な男、ルイヴィトンを傘下に持つLVMHグループやカルフール、パリジャン紙、レゼコー紙(Les Echos) のオーナー、ベルナール・アルノー氏(Bernard Arnault) に実質2倍のボーナスを与えることになります。
この政策には、2019年には約400億ユーロ、GDPの1.8%にあたる巨額なコストがかかり、住宅給付金減額によるコスト削減の100倍以上に相当します。結果として企業オーナーを大きく優遇する一方で、庶民からは搾り取ることに…。

Qu’est-ce que vous faites du pognon ? そのお金で何をしているのですか?
昨年10月にFBで公開され、630万回以上再生されたある怒りのビデオが黄色いベスト運動の発足を促しました。ブルターニュ出身のアコーデオン奏者ジャクリーヌさん (51才)は、ビデオの中でマクロン氏に3度も尋ねています。「あなたは、そのお金で何をしているのですか?」と…。
燃料価格の高騰と車両に課せられたより厳しい車検はすべてを表面化させるのに十分でした。


私たちは諦めない ! 黄色い日曜日【ディマンシュ・ジョーヌ】
※On ne lache rien! 私たちは諦めない !
「パンくずはいらない、パン屋が欲しい」というスローガンを通じて集結した黄色いベストの3ヶ月を記念して、17日の日曜日、約1500人がシャンゼリゼ通りに集まりました。 黄色いベスト運動の背景には、多国籍企業(Amazon, Starbucks…等)が拡大する一方で、フランスの地方都市ではパンを買いたくても街のパン屋が閉店という切実な状況がありました。
人々は月末を切り抜けるためのバウンスとして小切手を切りローンまみれ、ローンで丸々と太った銀行は合理化という名目で支店を閉鎖。また小売店だけでなく、近年では中央集権化によりフランス中の産婦人科が閉鎖に追い込まれています。
和気あいあいとしたMedicと黄色いベスト こうして忘れられた地方のフランス人が立ち上がり、黄色いベストを着て抗議活動を続けてきましたが、ここへきて黄色いベスト内での分裂が目立ちました。

先週土曜日には、ユダヤ人哲学者で黄色いベストに友好的なアラン・フィンケルクロート氏(Alain Finkielkraut)が、反ユダヤ主義者の黄色いベストから口頭で激しい攻撃を受けて差別問題に発展。翌日曜日には、黄色いベスト活動家で看護師のイングリッド・ルババスールさん(Ingrid Levavasseur)が、抗議者に囲まれて激しい屈辱の対象となり、集会から離れることを余儀なくされました。
なお、今日はパリとフランスの各地で第15週目のデモが行われ、今現在も進行中です。


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