昨日、土曜日のパリでは引き続き、ジレジョーヌによる抗議運動第5週”Act 5″が続投されましたが、先週のような大きな混乱は見られなかった模様です。

“Act 3” 破壊された共和国の象徴マリアンヌ像
税金に対する怒りの源
下層階級と不公平な税制
政治組織や労働組合とは無関係に出現し、特に農村部や都市部の周辺地域から支持を得た燃料税に反対する「黄色いベスト」の自発的な抗議活動がフランスを襲った。このデモで、若いサラリーマンや小規模な自営業者たちが長年抱いてきた感情が突然明るみになった。税金が再分配の手段として機能しているこの国において、社会の最下層にいる人々がことさら異議を唱えているとはどういうことなのか。
2018年12月 アレクシ・スピール
※Les classes populaires 庶民、下層階級、下層の人々 (Underclass) 、労働者階級
※en bas de l’échelle sociale 社会の最下層
“税金中止”、 “マクロン・ピクソー”、 “仕事に行くのは贅沢”、”右も左も税金”、 “たかりを止めろ、強大な民衆の反乱が革命を遂げる” …。
※Picsou ピクソー叔父さん。カール・バークス原作によるウォルト・ディズニー・アニメのキャラクター、スクルージ・マクダック (Scrooge McDuck)。架空の町ダックバーグに住む世界一金持ちのアヒル。ドナルドダックの伯父で、お金を何よりも愛している。
先月11月17日から、燃料税の引き上げに抗議して交通の中枢を閉鎖した民衆による抗議運動で、横断幕に踊る様々なスローガン。それらは変幻自在な政治に対する抗議活動と、具体的な対象に向けられた怒りを同時にかき立てる。”具体的”とはつまり、社会国家の基盤となる”税金”の事である。
※protéiforme 変幻自在の、絶えず姿を変える
※l’État social 社会国家、福祉国家
20世紀を通して、労働者階級は財政問題には比較的うとかった。第一次世界大戦後の所得に対する累進課税の導入は、とりわけ納税者協会に集まった自由業者、自営業者、そして農民の反感をあおった。その後、フランス人民戦線の時代(Front populaire 1936年-1938年) を除くと、労働者運動において税制の不公平という問題は、賃上げ要求や雇用保護といった問題に比べて軽視され続けてきた。
※l’impôt progressif sur le revenu 所得税の累進課税
※Front populaire (1936-1938) フランス人民戦線は1936年から1938年まで存続し、反ファシズムを掲げた社会党、急進社会党、共産党などによる連合政権。
所得税が税収全体に占める割合は4分の1でしかないというのに、税収の約半分を占める付加価値税(TVA)という不公平極まる間接消費税でさえ、左翼と労働組合を動員させることはめったにない。しかし近年では、”税務論争”が緊縮政策に反対する論争の中心的な問題として、勢いを取り戻してきている。
ポルトガルでは2010年5月、数万人が増税と予算削減に抗議した。その2年後には、数十万人のスペイン人が、厳しい予算、民営化、そして当時4%から21%まで引き上げられた学用品にかかる付加価値税に対し抗議していた。ギリシャでは公務員やサラリーマンが街頭に出て、低い給料や不公平な税制に対する抗議活動を行った。
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以上、ジレジョーヌ、黄色いベスト運動による大規模なデモの前に発表されたルモンド・ディプロマティックフランス語版から抜粋して翻訳。
フランスの不公平な税制が引き起こした抗議運動
2013年フランスでは、農家や中小企業のオーナーたちが重量物運搬車に対するエコタックスの導入廃止を求めて立ち上がった「ボネ・ルージュ」(赤いニット帽)運動が起こりました。エコタックスとは、フランス政府が重量貨物トラックの走行距離に応じて課税する新たなシステムでしたが、人員過剰により失業の危機に瀕したブルターニュ地方の運送業者や食品加工労働者たちが、このボネ・ルージュ運動に加わりデモが激化、エコタックスは廃案となりました。というわけで、今回のようにフランスで税金問題が発端となったデモは近年2回目です。

今年、2018年に浮上した税金問題の中心となったのはマクロン政権の政策でしたが、貧しい人々が富裕層を優遇する法案を知り、不当であるという意識を強く持つようになりました。そして先週のデモ後、エマニュエル・マクロンは、人々の怒りが正当であることを認め、テレビ演説を行い、最低賃金引き上げと税制改革をいくつか約束しました。が、果たしてそれだけで十分なのでしょうか?
人々は革命を求め、マクロン大統領の辞任を望んでいます。
フランスで2300万人が視聴したと言われるマクロン大統領のテレビ演説
今から11年前の2007年、ニコラ・サルコジの時間外労働への課税を免除するという公約と、スローガン「もっと働きもっと稼ぐ」は、多くの労働者階級の有権者たちを惹きつけました。
当時、語学学校へ通っていた、政治の事などほとんどわからない私でさえ、カーラブルー二と出会う前のサルコジの人気と、政治家としてのカリスマ性やオーラを実感していました。
そして2012年、フランソワ・オランドは、年間百万ユーロ以上(約一億二千万円)の所得に対する新たな課税率75%を公約したマニフェストが人気を博しました。しかし、どの大統領も支持率の低下は避けられなかったようです。

2017年、エマニュエル・マクロンは、エリート候補者としてのイメージを払拭するために住民税の廃止を約束。後に、住民税は3年をかけて段階的に廃止されるだろうと発表。
その他、ビジネスオーナーが贈り物や相続財産として、納税義務を逃れてビジネスを譲渡する事を可能にするDutreil協定の延長など、富裕層が最も恩恵を受ける法案を可決。
このような富裕層の受益者にとって非常に大きな節約となる抜け穴は、メディアの注目を完全に免れて可決されました。そしてクリスマスを目前に控えたフランスで今年11月、ディーゼル燃料への増税を発端に発展したのが今回のジレジョーヌ、黄色いベスト運動だったのです。

キャッサー(壊し屋)による街頭での破壊行為がメディアの注目を集め、瞬く間に世界中を騒がせる緊急事態となったジレジョーヌ、パリ在住の私は一度もこの騒ぎを目撃していません。パリの中心部、サン=ジェルマンデプレまで平日に毎日徒歩通勤をしていますが、デモが行われるのは土曜日のみなので、私の職場も自宅付近もいつも通りの光景です。
昨日行われたデモでも、シャンゼリゼやオペラ座付近とサンラザール駅周辺、または一部の高級住宅地以外では実際に何も起こっていない様子でした。
今だに多くの支持を得ている黄色いベスト運動ですが、マクロンがテレビ演説を行った事と、これ以上デモが続くとクリスマス商戦真っ只中のフランス経済に深刻な影響を及ぼすことから、事態は沈静化されるとみられています。

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